六本木、アパレル、スト値5
映画の説明
10月某日。
この日は曇り、気温も20度前後と過ごしやすい天気。私は、先日の六本木V2で番ゲした案件とのアポを控えていた。
仕事を早めに切り上げ、家を出る。必ず準即に繋げられると思ったし、それをクラブ内で感じ取っていた。
時計の針は19時50分を指していた。待ち合わせのドンキまで向かうと、そこに彼女は立っていた。白と黒のワンピースに、ジャケットを羽織った彼女は清楚系代表のような出で立ちだった。
「待たせてゴメンね」
アポの時刻を若干遅らせた彼女は、ハニカミながらそう私に言った。
「いいよ。気にしなくて。」
私はそこに当たり前にある空気のような返事をした。そして、目的地へ向かって歩き出した。歩きながら、さりげなく手を繋ごうとする。かわされた。まさかの。
マジで?クラブでのあれは一体何だった?私は困惑した。動揺を悟られないように、できるだけ平静を装った。彼女の好きなものの話をする。それに共感しながら、自分の意見も織り交ぜ会話を構成していった。
そんな話をしているうちに、行きつけのイタリアンバーに到着。シャンパンのボトルと、マスカルポーネのピザ、鴨のローストを注文する。
彼女は、とてもシャンパンが似合った。まるで熟練したバレエダンサーと、トゥ・シューズみたいに。カウンターの隣の席でゆっくりグラスを傾ける彼女の横顔を見ていると、自然と目があった。不思議そうに、何か言いたげに、大きな瞳でこちらを見返してくる。
私は違和感を感じた。その瞳に見覚えがあったからだ。そしてそれは、クラブの中でも感じていたものだった。どこだ?しかし、このレベルで既セクなら覚えているはず。私は彼女の恋愛遍歴を聞きだしながら、霞みがかった記憶をたどっていった。
ある瞬間、引き出しの奥にしまってあった古いフォト・ブックを見つけたときのように、すべての出来事を鮮明に思い出した。
彼女は、1年ほど前に私の家に来ていた。友人とのコンビナンパで、ウイングの担当だった子だ。私は、当時の彼女の相方の劣化版しょこたん(スト値6)を相手していた。セクした後、そのまま放流した案件だった。そのとき私のウイングは未遂に終わっていた。
あの子だ。間違いない。しかし、彼女は私を覚えている様子はなかった。でも、このまま家に持ち帰れば、彼女の過去の記憶が蘇ることは確実だった。どうする?ここを出た後、このまま持ち帰るか?それともカラオケ?あるいはラブホ?
私はそんな天文学的な確率の状況下において、選択を迫られていた。そんな思考を巡らせているとはつゆ知らず、依然として気付いている様子はなかった。
時刻は22:30。私はカラオケを選択することにした。2時間で入り、終電を逃す流れに持って行くためだ。そうさせる自信があった。なぜならば、彼女は私が好きなアーティストを、ファンクラブに入るくらい私以上に大好きだったからだ。カラオケに行けば間違いなく盛り上がる。
カラオケに入ると、案の定盛り上がった。時間は一瞬で過ぎ去った。二人とも酒が入り、ほどよく出来上がっていた。
「私、終電で帰るね。」
彼女が突然言った。選択ミスか?やばい。頭をフル回転させろ。どうにかして回避するんだ。その選択をさせてしまったら、「次回」はないと思え。
「わかった。送るよ。」
私は冷静に言った。彼女は笑顔で頷いた。まるで、予めテーブルの上に用意されていたお菓子のように。
彼女の終電の時間を把握していた。残り、6分。距離的に間に合うか微妙なラインだった。酔っ払っていたせいで、彼女は足取りがおぼつかなくなっていた。
「大丈夫?」
私は、笑いながら言った。そして、自信たっぷりに手を差し伸べた。彼女は私の手を強く握りしめた。彼女の手の感触を、確かに感じた。改札まで見送る。時計はもう見ない。
「じゃあ、またね。」
彼女が微笑みながら言った。アルコールか、あるいはチークのせいか、頬の赤さが改札の頭上にあるライトで際立っていた。
「うん。」
私はそう言いつつ軽くハグしながら、優しく彼女の額にキスをした。そして、そのまま彼女の後ろ姿を見送った。
田園都市線のホームは地下なので、帰りの地上へのエスカレーターを上っていく。同時に、ケータイが鳴った。
「終電いっちゃった。どうしよ。。。」
彼女からだ。
「すぐ迎えに行く。さっきの改札までこれる?」
私は言った。勝利を確信した。無事に彼女と合流した。
「飲み直そうよ。」
私はそう言いつつ、ホテルの方向へ歩き出した。